伊勢物語-第四段 雲ゐの峰(伝 為氏本)

 







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

(昔、西の院といふところに住む人ありけり。)その人市になむ出でたりける。

 

女車のありけるにいひつきにけり。

 

とかくをかしきことなむいひつきて、女「すみかはいづくぞ」といひければかくなむいひたりける。

和歌(5)

わが家は雲ゐの峰に近ければ教ふともむものならなくに

 

男、

和歌(6)

かりそめにそむる心しまめならばなどか雲ゐをたづねざるべき

 

といひて別れにけり。

 

(現代訳)

昔、西の院という所に住む男がいた。

 

その男が市に出掛けた。

 

女が乗る車があったので声を掛けた。

 

あれこれ興味のあることを話して、「どこにお住まいですか」と聞くと、女は、このように言ったのであった。

和歌(5)

私の家は、高くそびえ立つ峰がすぐ近くにあるくらいですので、お教えしてもおいでになることはできないでしょう。

 

男、

和歌(6)

軽い気持ちで声を掛けて始まった関係ですが、貴女に誠実な気持ちを抱いていますので、雲がかかるような空高い場所であっても貴女の家を訪ねないことがありましょうか…必ず訪ねますよ。

 

と言って別れたのであった。

  • 西の院

京都の西院。

 

牛車に乗るほどのある程度身分の高いであろう女が、高くそびえ立つ峰に住んでいる…そして場所は京。

諸々を鑑みると、女の言葉を素直に受け止めるのは、ちょっと無理があります。

 

空高い峰のような手の届かない場所…つまり宮中の奥である後宮に住む意味と解釈する方が自然ですよね。

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