伊勢物語-第六段 今はとて(伝 為氏本)
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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。
日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。
古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」
(原文)
昔ありける、色好みける女、あきがたになりつる男のもとに、
和歌(8)
今はとてわれに時雨のふりゆけば言の葉さへぞうつろひにける
返し、
和歌(9)
人を思ふ心のはなにあらばこそ風のまにまに散りもみだれめ
(現代訳)
昔居た色好みの女が、その女に嫌気がさして、飽きてきた男のもとに、
和歌(8)
今はもう秋になり時雨が降ると、葉が散るように私も年を重ねてきたから、貴方もいよいよ私に飽きてしまったのでしょう。葉だけでなく貴方の言葉までもすっかり変わってしまったのですね。
返し、
和歌(9)
貴女を思う私の心が移ろいやすい花のようなものであれば、風が吹くのにまかせて散り乱れてしまうでしょう。しかし、私の心は誠実ですから、移ろうなんてことはありません。
元になっている歌は、『古今集』782と783の小野小町と小野貞樹の有名な贈答歌です。
小野小町
いまはとて わが身時雨に ふりぬれば
言の葉さへに うつろひにけり
小野貞樹
人を思ふ こころの木の葉に あらばこそ
風のまにまに 散りも乱れめ
古代、木の葉の色を変えるのは、葉の上の「露」と信じられ、時雨が降ると木の葉を染め、やがて散り冬となります。
散ってゆく木の葉と同じように貴方の言葉もどこかつれないものに変わってしまったと嘆く女に、男の本心は分かりませんが、技巧的な歌を返しました。
小町らのやりとりよりも、この伊勢物語の方がより一段と女の嘆きが伝わってきます。
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