伊勢物語-第四十三段 名のみ立つ
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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。
日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。
古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」
むかし、賀陽の親王と申すみこおはしましけり。
その親王、女を思し召して、いとかしこう恵みつかう給ひけるを、人なまめきてありけるを、我のみと思ひけるを、また人聞きつけて文やる。
ほととぎすのかたをかきて、
和歌(80)
ほととぎす汝が鳴く里のあまたあればなほうとまれぬ思ふものから
といへり。
この女、けしきをとりて、
和歌(81)
名のみ立つしでの田をさは今朝ぞ鳴くいほりあまたとうとまれぬれば
時は五月になむありける。
男返し、
和歌(82)
いほり多きしでの田をさはなほ頼むわがすむ里に声し絶えずは
(現代訳)
昔、賀陽の親王と申し上げる皇子がいらっしゃった。
その親王がある女に好意を抱き、たいそう深く気を掛けていらしたが、ある男がその女に好意を寄せた振る舞いをし、
また別の男が、自分だけがこの女に好意を寄せていると思っていたが、自分以外にこの女に好意を寄せる男がいることを知り、手紙を書き送った。
ほととぎすの形を絵に書いて、
和歌(80)
ほととぎすよ、おまえは鳴く里がたくさんあるので、嫌な気持ちを抱いてしまう。
おまえに心惹かれていたとしても。
と歌を書き送った。
この女は、男を気遣って、
和歌(81)
悪評ばかりを立てられた死出の田長であるほととぎすは、今朝はこうして、
あちこちに巣を作り渡り歩いているという悪評のもと嫌われていしまい、泣いております
時季は、ちょうどほととぎすの五月。
男は次のように返した。
和歌(82)
あちこちに巣を飛び回る死出の田長のほととぎすを、わたしは、やはり、頼みにしています。
あちこちにの巣で鳴こうとも、わたしの住む里であなたの声を聴かせてくれるのならば。
女と歌をやり取りする「男」は、誰なのか?
その辺りが理解しにくい表現になっています。
賀陽の
親王が思いを寄せ、ある男も思いを寄せ、また別の男も思いを寄せている・・・女の気の多さを表すために3人の男が登場しますが、歌をやり取りしている男は、3人目の「また別の男」です。
そして、キーとなるのが「ほととぎす」です。
ほととぎすの別名「死出の田長」を引用し、ほととぎすの性質である、「定着性がない=浮気性」を表現しています。
ほととぎすは、自分で巣を作らず、うぐいすなどの巣に自分の卵を産み付ける性質もあり、そうした性質も女の浮気性と結びつけているが、
結局、この「男」は、よそで浮気しても、自分のところにも来てくれたら、構わないといった答えを出します。
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