伊勢物語-第五十段 鳥の子

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、男ありけり。

 

恨むる人を恨みて、

和歌(92)

鳥の子を十づつ十はかさぬとも思はぬ人を思ふものかは

 

といへりければ、

和歌(93)

朝露は消えのこりてもありぬべし誰かこの世を頼みはつべき

 

また、男、

和歌(94)

吹く風に去年こぞの桜は散らずともあな頼みがた人の心は

 

また、女、返し、

和歌(95)

ゆく水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり

 

また、男、

和歌(96)

ゆく水と過ぐるよはひと散る花といづれ待ててふことを聞くらむ

 

あだくらべ、かたみにしける男女の、忍びありきしけることなるべし。

 

(現代訳)

昔、男がいた。

 

男のことを不誠実だと恨み言を言ってきた女に、男が逆に恨み言を言った。

和歌(92)

重ねられない鳥の卵を百個重ねたとしても、本当に思ってもくれない人を愛しく思うでしょうか。そんなこと、あり得ない。

 

と言ったところ、女は、

和歌(93)

はかなく消える朝露は、消えずに残るものもあるでしょう。

そんな朝露よりもはかにあなたとの仲を最後まで頼りにできましょうか。とても無理です。

 

また男は、

和歌(94)

去年の桜は、風に吹き散らされてしまったが、仮にそれらが散らずに残るという奇跡があったとしても、

人の心は、もはや頼りにならないことですよ。

 

また女の返し、

和歌(95)

流れ行く水の流れに数を書いたところで、消え去りはかないが、

もっとつまらないのは、思ってもくれない人を愛しく思うことですね。

 

また、男、

和歌(96)

流れ行く水と過ぎ去る年齢と散る花と、どれが待ってくれということを聞くでしょうか。

どれも聞いてはくれないでしょう。

 

浮気の比べ合いを互いにしていた男女が、互いにこっそり別の異性の所へに通って遊んでいたときのやりとりなのであろう。

前半は、極端な仮定を出して、非は相手にあるとやり合っているが、

後半は、人の心は変わりゆき無常であり、また片思いの切なさなどを嘆く形式をとっている。

 

本気で相手を責めているのではなく、男女の歌のやりとりを楽しんでいる。

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