伊勢物語-第八十六段 おのがさまざま
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日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。
古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」
(原文)
むかし、いと若き男、若き女をあひ言へりけり。
おのおの親ありければ、つつみていひさしてやみにけり。
年ごろ経て、女のもとに、なほ心ざし果たさむとや思ひけむ、男、歌をよみてやれりけり。
和歌(156)
いままでに忘れぬ人は世にもあらじおのがさまざま年の経ぬれば
とてやみにけり。
男も女も、あひはなれぬ宮仕へになむ出でにける。
(現代訳)
昔、たいそう若い男が、若い女と情を交わし親しくしていた。
二人ともそれぞれ親があったので、叱られやしないかと遠慮して、情を交わすこともやめてしまった。
何年かが経ち、女のもとに、やはり心にある思いを果たそうと思ったのだろうか、男は、歌を詠んで送ったのであった。
和歌(156)
この長い年月のなかで、昔のことを忘れない人など、決していなかったでしょう。私たちもめいめい自分の時間を生きてきたのですから…しかし私はあなたのことを忘れてなどいないのですが。
と詠んだが、結局、女との関係は終わってしまった。
男も女も、すっかり離れることができない同じ宮仕えに出たのであった。
若い男女が互いに思いを寄せていたが、親などへの遠慮や気兼ねで別れてしまった。
長い年月が経ち、男は女に歌を詠んだが、それは、諦めているようで未練も秘めた歌…
しかし、二人は職場が同じであり、完全に忘れようにもそういう訳にはいかない。
最後、余韻が漂いますが、この時点で結ばれたとしても、離れていたときに失った時間は戻らず、若かったあの頃の二人ではなく…
何年か後に、男は、再び思い立ち、また歌を詠むのでしょうか?そのときもまた月日は経っており。
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