伊勢物語-第九十段 桜花

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、つれなき人をいかでと思ひわたりければ、あはれとや思ひけむ、

「さらば、明日、物越しにても」といへりけるを、限りなくうれしく、またうたがはしかりければ、おもしろかりける桜につけて、

和歌(164)

桜花今日こそかくもにほふともあな頼みがた明日の夜のこと

 

といふ心ばへもあるべし。

 

(現代訳)

昔、ある男が冷淡で相手にもしてくれない女をなんとかして自分に振り向かせようと思い続けていたところ、

女は心動かされたのであろうか「では明日、すだれなど物を隔ててならば、お会いしましょう」と言ったのを、

男は限りなく嬉しく思い、また同時に本心かどうか疑わしくも思ったので、趣深い桜の枝に付けて、

和歌(164)

桜の花は、今日はこのように美しく色よく咲いていても、明日の夜にはどうなっているのか、あてにならず頼りないものです

 

という歌を送ったが、男がこうした気持ちになるのも当然であろう。

「物越し」ですから、すだれ越しに話をするだけならいいですよ、と。

話をするだけでも、男には長年の思いが叶うわけで、明日には心変わりするのではないかと不安がよぎるのも当然かもしれない…

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