日の本の屋根裏から日本を考える

古事記を読む(245)下つ巻-第21代・雄略天皇

 







この記事を書いている人 - WRITER -
雨野やたしげ
フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰を強く願う「自分たちの神話を学ばない民族に未来はない」。

一言主大神ひとことぬしのおおかみ

またあるとき、天皇は、葛城の山にお登りになりました。

するとそのとき、大きな猪が現れ、天皇が鳴鏑なりかぶらでその猪を射ると、その猪が怒って唸りを上げて走って来ました。

天皇は、その唸りを恐れてはり(ハンノキ)の上に登って座りました。

 

そこで、次の歌をお詠みになりました。

和歌(90)

やすみすし 我が大君の 遊ばしし 猪の 病み猪の うたき畏み 我が逃げ登りし あり丘の はりの木の枝

(我が大君が、狩りをした猪が、その傷付き病んだ猪が、怒って唸りを上げた。それを恐れ、わたしが逃げて登った、その丘のはりの木の枝よ)

 

あるとき、天皇が葛城の山にお登りになったとき、百官もものつかさ(多くの官僚・役人)たちは、紅い紐をつけた青染めの衣服を与えられて着ていました。

 

そのとき、向かいの山の尾根から山の上に登って来る人たちがいました。

その人たちの行列は、天皇の行列と同じで、その装束しょうぞくの様子や人数もそっくりで、同じようでした。

 

天皇は、それをご覧になると、

「この倭国にわたし以外に王はいない。今、一体誰がこのように同じ様子でいるのか」

と尋ねさせると、

それに答える様子もまた天皇と同じ様子でした。

 

これに天皇は、大いにお怒りになり、矢をつがえ、百官もものつかさの人たちも皆、矢をつがえました。

すると、その相手の者たちも皆、矢をつがえました。

 

それで天皇が、

「ならばその名を名乗れ。それぞれ名を名乗ってから矢を放とう」

とお尋ねになると、

「わたしが先に問われたのだから、わたしがまず名乗ろう。わたしは、凶事も吉事も一言で言い分ける神である一言主大神ひとことぬしのおおかみである」

とお答えになりました。

 

天皇は、恐れかしこまり、

「恐れ多いことです。我が大神。宇都志意美うつしおみとは存じ上げませんでした」

と仰せになり、

大御刀おおみたちや弓矢をはじめとして、百官もものつかさの人たちの着ている衣服を脱がせて、拝んで献上しました。

 

すると、一言主大神ひとことぬしのおおかみが柏手を打って捧げ物を受け取りになりました。

 

天皇がお帰りになろうとすると、大神は、山の峰から長谷山はつせやまの麓までお見送りになりました。

 

一言主大神ひとことぬしのおおかみは、こうしてそのとき、姿を現しになりました。

宇都志意美うつしおみ御身が現実に姿を現す意味。

一言主大神ひとことぬしのおおかみ「いちごんさん」とも呼ばれ、一言の願いならば聞き届けてくれる神。

 

前半部分の猪は、本当の猪ではなく、山の神と理解するのが自然で、そうすると、後半部分の話の流れが理解しやすくなります。

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