伊勢物語-第十四段 いざ桜(伝 為氏本)

 







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

昔、色好む人ありけり。

 

男もさまかはらずもろ心にて、色好む女、これをいかで得むと思ふに、女もねうじうわたるを、いかなる所にかありけむあひみけり。

 

男も女もかたみにおぼえけれど、われもいかで捨てられじと心の暇なく思ふに、なほ女出(い)でていなむと思ふ心つきて、

和歌(18)

いざ桜散らばありなむひとさかりなれなば憂きめ見えもこそすれ

 

と書きつけていきけるを、驚きてみれば、なければいとねたくて、

和歌(19)

いささめに散りぬる桜なからなむのどけき春のなをもたつめり

 

といへどもかひなし。

 

(現代訳)

昔、色恋好きな女があった。

 

男も女と同じく色恋好きな同じ心で、この女をどうにかして自分のものにしようと思っていたところ、女もこの男を思い続けており、どのような機会があったのであろうか、2人は出会ってしまった。

 

男も女も互いに愛しく思っていたのだけれど、お互いに自分もなんとかして相手に捨てられまいと心が落ち着く間もなく思っていたところ、やはり女は出て行ってしまいたいとゆう気持ちになって、

和歌(18)

さあ桜よ、散るのならば、花盛りの美しい時期があるに違いない。花の盛りは短いからこそ良いのであり、長く続いてしまうと、見慣れて残念な姿が見えることもあるでしょう

 

と書き付けて行ってしまい、男が目覚めてみると、女の姿がなく悔しくて、

和歌(19)

少しの間だけしか咲かない桜なら、むしろ咲かなければいいのに。最初から桜が咲かないのであれば、のどかな春の名も立つだろうに

 

と言ったけれど、どうにもならなかった。

お互いに相思相愛であったにもかかわらず、長く一緒に過ごしてしまうと、飽きられて捨てられてしまうのではないか…

そんな不安にかられて、男のもとを自ら去ってしまった女。

そして悔しがる男。

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