伊勢物語-第九十九段 ひをりの日

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、右近の馬場うまばのひをりの日、むかひに立てたりける車に、女の顔の、下簾したすだれよりほのかに見えければ、中将なりける男のよみてやりける。

和歌(174)

見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなく今日けふやながめ暮さむ

 

返し、

和歌(175)

知る知らぬ何かあやなくわきていはむ思ひのみこそしるべなりけれ

 

のちにはたれと知りにけり。

 

(現代訳)

昔、右近の馬場うまば騎射きしゃの行事の日に、向かい側に立てて合った牛車に、女の顔がすだれの内側の垂れぎぬの隙間からかすかに見えたので、中将であった男が歌を詠んで送った。

和歌(174)

顔が見えなかったわけでもなく、かといってはっきりと見えたわけでもない貴女のことがとても恋しく、今日はぼんやりと物思いにふけって一日を過ごすのでしょうか。

 

女の返し、

和歌(175)

見知るとか知らないとか、何をそんな無理に区別して判断できましょう。知るには、あなたの熱烈な思いこそが道しるべとなるものです。

 

後には、男は女が誰であるかを知って、逢うようになったのであった。

  • 中将なりける男

業平のこと。

 

 

右近衛府に属する右近の馬場うまばで、馬上から的を射る騎射きしゃの会での出来事…

 

見学に訪れていたある牛車のすだれ越しに、かすかに見えた女に業平が恋をしたという話。

 

この和歌(174)は、在原業平朝臣の歌として『古今集』にもおさめられています。

詞書ことばがきは、

「右近の馬場のひをりの日、むかひに立てたりける車の下すだれより、女の顔のほのかに見えければ、よみてつかはしける」

古今集

女の返し、和歌(175)は、強気ですよね…

見知るとか知らないとかどうでもいいの、あなたの気持ちは、逢いたいの逢いたくないの?といった感じでしょうか…

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