伊勢物語-第二段 せがゐの水(伝 為氏本)

 







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

昔、女をぬすみてなむ行く道に、水のある所にて「飲まむとや」と問ふに、うなづきければ、つきなども具せざりければ、手にむすびて食はす。

 

ゐてのぼりけり。

 

男なくなりにければ、もとの所にかへり行くに、かの水飲みし所にて、

和歌(3)

大原やせがゐの水をむすびつつあくやと問ひし人はいづらは

 

といひて来にけり。あはれあはれ。

 

(現代訳)

昔、女を盗んで行く途中の水のある所で、男が「飲みたいか」と問うと、女がうなづいたが器などを持っていなかったので、手ですくって飲ませた。

 

男は女を連れて、都へと行ったが、やがてこの男が亡くなってしまったので、女は以前に住んでいた所へ帰る途中、あの水を飲んだ所で、

和歌(3)

大原で、清い湧き水を手にすくって飲ませてくれて、十分に飲んだかと尋ねてくれたあの人はどこに行ってしまったのであろうか

 

と言って帰ってきた。哀れで切ないことよ。

男が女を盗んで逃げる話としては、第六段 芥川が真っ先に浮かびます。

 

業平が藤原高子たかいこを盗み逃げた「第六段 芥川」は、都から地方への逃避劇でしたが、

この話は、「ゐてのぼりけり」とあるように、地方から都への逃避劇であることが分かります。

 

男が亡くなり、女は元々住んでいた地方へと帰る途中で、かつて水を飲ませてくれた優しい男との思い出を思い出します。

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