生前退位(譲位)は違憲か?合憲か?

先日、新天皇の即位に伴い2019年のゴールデンウィークが10連休になるニュースが流れた。
「譲位」が目の前にせまっていることを実感せずにはいられない。
「生前退位」と言う言葉、マスメディアが連呼しているが、ここでは「譲位」で統一をしたいと思う。
ちなみに「生前退位」も元来使用されている言葉で、別にマスメディアの造語という訳ではない(わたしは、大いに勘違いしていた・・・はは)。
「日本を考える」上でこの「譲位」に触れない訳にはゆかないので、少しづつ触れてゆきたいと思う。
日本国憲法における譲位
当然ながら、日本国憲法になって、初めての譲位。
「譲位」は、憲法改正が必要だという意見や、いや憲法改正は必要なく、皇室典範のみの改正で可能だという意見や、様々な意見を目にする。
話をこねくり回さず、虚心坦懐にシンプルに条文だけを読んで順を追ってみたいと思う。
シンプルが一番さ・・・何事も・・・
日本国憲法:
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
「皇位は、・・・皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」
皇位に関しては、「皇室典範」を見ればよいのがシンプルに分かる。
「皇室典範」は、言うまでもなく、皇室に関することを法律で定めたものである。
皇室典範は、
第一章 皇位継承
第二章 皇族
第三章 摂政
第四章 成年、敬称、即位の礼、大喪の礼、皇統譜及び陵墓
第五章 皇室会議
から構成されており、譲位に関係する「第一章 皇位継承」を見ていくと、今回の譲位に関係する、ことさらキーとなる条文がある。
皇室典範:
第四条 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。
皇嗣:皇位継承順位1位の皇族。
つまり、皇室典範では、天皇が崩じたときしか、皇位の継承を認めていない。
現憲法及びその下の皇室典範では、譲位できないのがシンプルによく分かる。
かつては、頻繁に譲位が行われていた
天皇史を見てゆくと、かつては、当たり前のように譲位が行われていたのがよく分かる。
今上天皇が第125代目な訳だが、そのうち58代の天皇が譲位しているのが天皇史から分かり、当然、日本史でも「上皇」や「法皇」の言葉をよく目にする。
譲位した元天皇は、「上皇」と呼ばれ、出家をすると「法皇」と呼ばれる。
その上皇や法皇が院政をひいて、天皇を凌ぐ権力をもった。
国事行為は、当然天皇しか行えないので、激務の国事行為は、天皇に押しつけ、
おいしい政治権力だけは、上皇が握るという院政は、様々な弊害を生んだ歴史がある。
今上天皇も譲位後は、「上皇」と呼ばれることになる。
但し、日本国憲法下では、第四条で天皇の国政に関する権能を否定しているので、上記のような政治に関するごたごたは起こらない。
日本国憲法
第四条 一項:天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
皇室典範に譲位に関する規定がない訳
このように、かつては、頻繁に行われていた「譲位」が明治時代に作成された皇室典範では、何故規定されなかったのか・・・
現在では、ちょっと考えられないが、かつては「上皇」や「法皇」が天皇以上の強い権力を持って政治を支配したり、ときの権力者によって、譲位させられたり、天皇自らの恣意的な譲位といった事態が起こっていた訳で、こういうことが起こり得ることを明治政府は危惧し、皇室典範に譲位に関する条文を規定しなかった。
恣意的な譲位とは、自分の政治的思想や願望を実現するために行う譲位である。
幕末の孝明天皇は、熱烈な攘夷思想であったが、開国に傾く幕府に対して、自らの譲位をちらつかせて、幕府に開国を思いとどまらせようなんてこともした。
こういったことは、現代ではあまり考えられないが、強烈な個性をもった天皇が出てくればあり得ない訳ではない。
上記したように、日本国憲法下では、天皇の政治参加は、認められていない。
自らの政治的思想を公にお話しになることも認められていない。
しかし、日本という国は、法律を定めるにも、総理大臣を変更するのにも天皇の公布や任命が必要な訳である。
自分の意に反する総理大臣を任命せず、恣意的に譲位するなんてことも絶対に起こらないとは言い切れない。
さらに、昔のように天皇になる資格のある皇族がたくさんいる訳でもなく、譲位を簡単に認めてしまうと、皇族の維持に多大なる影響が出ることも懸念しているのかもしれない。
現憲法下でどう譲位を実現するか
それなら、現憲法下で譲位を実現しようとすると、
1.皇室典範を改正する
2.特措法で実現する
このどちらかしかない訳だが、
皇室典範を改正する
ということは、新たに再改正されない限り、今後の歴代天皇にも譲位を認めるということになる。
逆に、
特措法で実現する
ということは、今上天皇に限る一代のみを特例として、譲位を認めるということになる。
では、現安倍政権が、どちらで譲位を実現しようとしているのか・・・
これには、賛否あるが、「特措法で実現する」ことを目指し、それをもう閣議決定している。
しかし、平成28年8月8日に出された今上天皇のメーセージを読み、僭越ながら忖度すると、一代限りではなく、恒久的な制度として、つまり皇室典範を改正しての譲位を望んでいることがにじみ出ているように思う。
今上天皇の過去の発言などを慮る限り、歴史認識に関しては、いわゆるリベラルに近く安倍首相とは相容れない感じが拭えない。
それが、「恒久的な制度としての譲位」を目指す皇室典範改正ではなく、「一代限り」の特例法での対処になったかは、知るよしもないが・・・
そもそも何故譲位を望んでいるのか
これも平成28年8月8日に出されたメーセージから読み取れる。
いわゆる「象徴天皇」としての務めが、高齢のために十分に行えなくなってきた、ということだと思う。
これに対し、それならば、その努めを軽減しようという意見が当然出てくる訳であるが・・・
今上天皇のお考えは、そうではなく、
「今行っている「努め」は、国民にとって全て必要なことであり、軽減しないと「努め」が果たせないのならば、譲位して年齢的にも若い新たな天皇がその「努め」を全うする」
ということであろう。
それが「象徴天皇」のあるべき姿なのだということだと思う。
決して、「私」的な理由での譲位ではなく、国民、日本を思っての「公」的な理由で譲位を望んでおられることがこのメーセージから読み取ることができる。
おわりに
今上天皇のご意向を重々ご理解した上で、個人的に、現段階では、わたしも「一代限り」の特措法での対処で良かったのではないかと思っている。
世論調査では、「恒久的な制度としての譲位」を望む意見が圧倒的に多いみたいですが・・・
本来は、確かにその通りで、特措法という裏技は、日本の法体系を健全に維持するためにもできる限り使うべきではないと思う。
「一代限り」の特措法を支持するのは、わたしは、どうしても皇室の維持と恣意的な譲位というものを危惧してしまうからだが、
これも今後、勉強していくうちに考えが変わるかもしれない・・・
しかし、政治的思惑でこの特措法での譲位の決定と引き替えに「女性宮家の創設を検討する旨の条項」も盛り込まれたことも頭に入れておく必要があり、
これに関しては、国民の1人として注視していくべきだとも思っている。