伊勢物語-第百十一段 まだ見ぬ人

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、男、やむごとなき女のもとに、なくなりにけるをとぶらふやうにて、いひやりける。

和歌(190)

いにしへはありもやしけむ今ぞ知るまだ見ぬ人を恋ふるものとは

 

返し、

和歌(191)

下紐のしるしとするも解けなくに語るがごとは恋ひずぞあるべき

 

また、返し、

和歌(192)

恋しとはさらにもいはじ下紐の解けむを人はそれと知らなむ

 

(現代訳)

昔、男が、身分の高い女のもとに、不幸にも亡くなってしまった人を弔う形で歌をいいおくった。

和歌(190)

昔はあったのかもしれませんが、私は今初めて知りました。まだ見たこともない人を恋しく思うことがあるなんて。

 

女の返し、

和歌(191)

人から恋慕われると下紐が解けるといいますが、私の下紐は解けておりませんから、貴方がおっしゃるほどには、貴方の私への気持ちは大したことないようですね。

 

また男の返し、

和歌(192)

貴女が恋しいとは、決して口にはいたしません。貴女の下紐が解けた時、それは私の貴女への恋心の証拠だと、知っていただきたいものです。

少し話がややこしいですが、男が好意をよせる身分の高い女が親しくしていた人が亡くなり、死者を弔う風な様子で、

接触する好機とばかりに身分の高い女に歌をおくったという話です。

 

女は、そのことに気付き、和歌(191)を返します。

初めてのやりとりにしては、「下紐」がいきなり出てくるあたり内容が露骨ですよね。

 

男は、最後に、もう好きだとは言いませんが、「下紐」が解けたときは、私の恋心の証拠だと思ってくださいと、和歌(192)を返します。

女の見事な返しを楽しむ話でしょうか…

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