伊勢物語-第十三段 武蔵鐙
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日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。
古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」
(原文)
むかし、武蔵なる男、京なる女のもとに、「聞ゆれば恥づかし、聞えねば苦し」と書きて、
うはがきに、「むさしあぶみ」と書きておこせてのち、音もせずなりにければ、京より女、
和歌(18)
武蔵鐙さすがにかけて頼むには問はぬもつらし問ふもうるさし
とあるを見てなむたへがたき心地しける。
和歌(19)
とへばいふとはねば恨む武蔵鐙かかるをりにや人は死ぬらむ
(現代訳)
昔、武蔵の国に住んでいた男が、京にいる女のもとに「言えば恥ずかしいし、黙っておけば苦しい」と書いて、上書きに「むさしあぶみ」と手紙を書いて送ったのち、
何の連絡も途絶えてしまったので、京から女は、
和歌(18)
武蔵鐙が「さすが」に左右に掛かっているように、武蔵の国でも妻を持っているあなたでも頼みにしています。
手紙が無いのも辛いですが、手紙でそちらの妻のことをあれこれ知らされるのもわずらわしい気持ちになります。
と返事を寄こしたのを見て、男はやりきれない気持ちになった。
和歌(19)
手紙を送ればうるさいと言い、送らなければ恨む。このようなときに、人はどうして良いか迷い死んでしまうのであろう。
武蔵の国で生産するあぶみであり、あぶみは、馬に乗るとき、左右に両足を乗せる馬具。
転じて、京のあなた以外に武蔵の国でも妻ができたことを暗に伝えている。

「さすが」は、あぶみを下げる皮についている金具であり、副詞の「さすが」に掛けている。
さすが
あることを一応は認めながら、一方でそれと相反する感情を抱くさま。
この気持ちが和歌(18)に葛藤となって表れています。
女の葛藤を知った男は、ではどうすればよい・・・?という心境でしょうか。
この時代は、当然一夫多妻であり、違う土地に行けば現地でそれぞれ妻を持つのが普通の時代ですが、人情としては、男は少し後ろめたさがあり、女は頭で理解していても、やはり心は辛いといった感じなのでしょう。
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