日の本の屋根裏から日本を考える

伊勢物語-第三十九段 源の至

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、西院の帝と申すみかどおはしましけり。

 

そのみかどのみこ、たかい子と申すいまそがりけり。

 

そのみこうせ給ひて、御葬の夜、その宮の隣なりける男、御葬見むとて、女車にあひ乗りて出でたりけり。

 

いと久しうて出でたてまつらず。

 

うち泣きてやみぬべかりけるあひだに、天の下の色好み、源のいたるといふ人、

これももの見るに、この車を女車と見て、寄り来てとかくなまめくあひだに、かのいたる、蛍をとりて、

女の車に入れたりけるを、車なりける人、この蛍のともす火にや見ゆらむ、ともし消ちなむずるとて、乗れる男のよめる、

和歌(75)

出でていなば限りなるべみともし消ち年経ぬるかと泣く声を聞け

 

かのいたる、返し、

和歌(76)

いとあはれ泣くぞ聞ゆるともし消ちきゆるものとも我は知らずな

 

天の下の色好みの歌にてはなほぞありける。

 

いたるしたがふ祖父おほぢなり。

 

みこの本意ほいなし。

 

(現代訳)

昔、西院の帝と申し上げる帝がおいでになられた。

 

その帝の皇女に祟子たかいこと申し上げる方がいらっしゃった。

 

その皇女がお亡くなりになり、御葬送の夜、その皇女の御殿の隣に住んでいた男が御葬送を見ようというので、女の乗る牛車に女と一緒に乗って出掛けたのであった。

 

たいそう長い間、ひつぎを乗せた車を引き出し申し上げない。

 

別れを惜しんで泣くだけで帰ってしまおうとしたが、天下の色好みである源のいたるという人が、

これも御葬送を拝みにきていたが、女の車だと思って、近づいて来て色っぽく誘いをかけるようなそぶりをしているうちに、

そのいたるは蛍を捕まえて、女の車に入れたところ、車の中の女は、この蛍のともす光で顔を見られてしまうかもしれない。

 

そういう訳でこの蛍の光を消そうということで、同乗していた男が次の歌を詠んだ、

和歌(75)

棺が御殿を出てしまったならば、皇女さまにとっては最後でしょうから、すっかり灯火ともしびを消したなかで、皇女さまの御命はなんと短く儚いものであったかと、皆が泣く声をお聞きなさい。

 

これに対して、かのいたるは、次のように返した、

和歌(76)

とてもあはれなことです。皆の泣き声が聞こえてきます。

しかし、たとえ灯火ともしびを消したからといって、皇女さまに対する皆の思いが消えてしまうことがあるでしょうか・・・わたしはそのように思いません。

同じように、蛍の光を消したとて、思慕の思いまで消えてしまうとは思いません。

 

天下の色好みの歌としては、いまひとつであった。

 

いたるは、源順みなもとのしたがうの祖父である。

 

このような歌は、真心がなく皇女さまのご本意には沿わないものであった。

  • 西院の帝

53代淳和じゅんな天皇のこと。

 

  • たかい子
淳和じゅんな天皇の内親王祟子たかいこ。母は橘船子。

 

  • 女車

車の下からすだれを出したりして、女が乗っていることを示している車。

 

要約すると、

淳和じゅんな天皇の祟子たかいこ内親王が薨去こうきょされ、

その葬儀の夜、御殿の隣に住んでいた男が女とともに女車に乗り込んで葬儀に出向きます。

 

そこに源至みなもとのいたるという色好みが、その女車に女のみが乗っていると思い込み、声を掛けてきます。

 

そして、蛍の光で女の顔を見たかったのか蛍をその女車の中に放つと、女車に同乗している男が歌を作り、それを女に詠ませます。

 

「このような葬儀の場で場違いな不謹慎なことは止めて、皆の悲しむ声を聞きなさい・・・」

 

源至みなもとのいたるは、これに対して、

「皆の悲しむ声は聞こえております。蛍の光が消えたからといって、皇女さまを慕う気持ちは変わらないし、わたしのあなたへの恋心も消えはしません」

 

色好みの源至みなもとのいたるにしては、いまいちの歌であり、葬儀の場でこのようなことをするというのは、不謹慎であり、皇女さまを慕う気持ちも本当かどうか、怪しい・・・

 

といった感じでしょうか。

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