伊勢物語-第五十九段 東山

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、男、京をいかが思ひけむ、東山に住まむと思ひ入りて、

和歌(107)

住みわびぬいまはかぎりと山里に身をかくすべき宿求めてむ

 

かくて、ものいたく病みて、死に入りたりければ、おもてに水注ぎなどして、いき出でて、

和歌(108)

わが上に露ぞ置くなる天の河とわたる舟のかいのしづくか

 

となむいひて、いき出でたりける。

 

(現代訳)

昔、男が京の生活をどう思ったのであろうか、東山に住もうと深く思い込んで、

和歌(107)

都は住みづらくなってしまった。今を限りと思って、山里に身を隠せる宿を探している。

 

こうして山里で暮らしているうちに、病気になり、死んだような状態になったので、顔に水をかけたりして、やっと息を吹き返して、

和歌(108)

わたしの上に露が降りたようだ。この露は天の河の渡し場を渡る舟のかいのしづくであろうか。

 

と歌を詠み、息を吹き返したのであった。

 

  • かい

先端を水に入れ、かいて舟を進める道具。

 

ある男が都での生活がいやになり、東山あたりで穏やかに暮らしたいと深く願う。

この当たりの心情は、現代人でもよく聞く話であり、理解可能。

 

そして、現に穏やかに暮らし始めると病に罹り・・・その状態のところで水をかけられ、意識を戻す。

そのときの顔の露を見て「舟のかいのしづくのようだ」と言ったという、つかみ所の無い一風変わった話。

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