伊勢物語-第六十七段 花の林

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、男、逍遥せうえうしに、思ふどちかいつらねて、和泉の国に二月きさらぎばかりにいきけり。

 

河内の国、生駒の山を見れば、曇りみ晴れみ、立ちゐる雲やまず。

 

朝より曇りて、昼晴れたり。

 

雪いと白う木の末に降りたり。

 

それを見て、かのゆく人のなかに、ただひとりよみける、

和歌(124)

きのふけふ雲の立ち舞ひかくろふは花の林を憂しとなりけり

 

(現代訳)

昔、男が、気ままにそぞろ歩きをしようと、気の合う仲間と一緒に和泉の国に二月頃行った。

 

河内の国の生駒山を見ると、曇ったり晴れたりして、高く上ったり低く横に広がったりする雲がたえず動いている。

 

朝から曇って、昼に晴れた。

 

雪はたいそう白く木の梢に降りかかっている。

 

それを見て、かのそぞろ歩く人たちの中で、ただ一人が次のように詠んだ。

和歌(124)

昨日も今日も雲が立ち上り、舞うようにして、生駒山の姿はずっと隠れていたが、梢に花が咲いているようなこの景色を見せるのが辛かったということなのですね。

  • 逍遥せうえうしに

気ままにあちこち歩き回るために。

 

 

前段から和泉・河内と旅をかさねて、住吉、伊勢と旅路が続いてゆく。

 

陰暦二月、早春の生駒山の姿が、雲がたえず動いて隠れて見えない。

 

山が美しい白雪の景色を人に見せることを惜しんでいるのかなぁと、山と雲に感情移入して、詠んでいる。

 

花を待ち焦がれ、同時に雪も惜しんでいる…

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