伊勢物語-第七十五段 海松 2021-01-22 WRITER 雨野やたしげ この記事を書いている人 - WRITER - 雨野やたしげ フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」 (原文) むかし、男、「伊勢の国に率ゐていきてあらむ」といひければ、女、 和歌(135) 大淀の浜に生ふてふみるからに心はなぎぬかたらはねども といひて、ましてつれなかりければ、男、 和歌(136) 袖ぬれて海人あまの刈りほすわたつうみのみるをあふにてやまむとやする 女、 和歌(137) 岩間より生ふるみるめしつれなくは潮干しほひ潮満ちかひもありなむ また男、 和歌(138) 涙にぞぬれつつしぼる世の人のつらき心は袖のしづくか 世にあふことかたき女になむ。 (現代訳) 昔、男が女に「貴女を伊勢の国に連れて行き、一緒に住みたい」と言ったところ、女は、 和歌(135) 伊勢の大淀の浜に生えているという海松みるという言葉通り、私の心は、貴方をお目にかかるだけで落ち着きます。貴方と契りまで交わさなくとも。 といって、以前より冷淡になったので、男、 和歌(136) 袖を濡らして海人あまが刈りとって干す海の海松みるを思うだけで、貴女は私に逢おうともせず、終わりになさるのですか。 女、 和歌(137) 岩の間から生えている海松布みるめではないですが、私は貴方に逢うつもりはありませんが、潮が満ち引きするうちにうまくいくこともあるのかもしれません。 また男、 和歌(138) 私は涙に濡れて袖をしぼっています。貴女の無情な心は私の袖の雫となるのでしょうか。 まったく、逢うことが難しい女であった。 伊勢から京の都に戻った男が、京の女を誘っている。 男は、伊勢が気に入ったのか、あの伊勢でこの女と暮らすのも悪くないかもしれないといった気持ちで誘っているが、女が一向に心を動かさない…そんな贈答歌。 この記事を書いている人 - WRITER - 雨野やたしげ フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」 前の記事 -Prev- 伊勢物語-第七十四段 重なる山 次の記事 -Next- 伊勢物語-第七十六段 小塩の山 関連記事 - Related Posts - 伊勢物語-第二十段 楓のもみぢ 伊勢物語-第百九段 人こそあだに 伊勢物語-第九十段 桜花 伊勢物語-第二十三段 筒井筒 最新記事 - New Posts - 伊勢物語 あとがき 伊勢物語-第十八段 あきの夜も(伝 為氏本) 伊勢物語-第十七段 夢と知りせば(伝 為氏本) 伊勢物語-第十六段 太刀のをがはの(伝 為氏本)