伊勢物語-第九十五段 彦星に
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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。
日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。
古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」
(原文)
むかし、二条の后に仕うまつる男ありけり。
女の仕うまつるを、つねに見かはして、よばひわたりけり。
「いかで物越しに対面して、おぼつかなく思ひつめたること、すこしはるかさむ」といひければ、女、いと忍びて、物越しに逢ひにけり。
物語などして、男、
和歌(170)
彦星に恋はまさりぬ天の河へだつる関を今はやめてよ
この歌にめでてあひにけり。
(現代訳)
昔、二条の后にお仕え申し上げる男がいた。
同じく二条の后にお仕え申し上げるある女と、男は、いつも顔を合わせるうちに思いを募らせて、求婚し続けていた。
「どうにかして簾などの物越しにでも対面して、気がかりで思い詰めた気持ちを少しでも晴らそう」と言うと、女はたいそうこっそりと、簾などの物越しに逢ったのであった。
あれこれと話をして、男、
和歌(170)
彦星よりも私の貴女への思いは勝っています。まるで天の河のように、私たちの間を隔てる関所のようなこの簾を今はやめてください。
この歌に感心した女は、簾を取り払い、親しく男と対面したのであった。
藤原高子。
「二条の后にお仕え申し上げる男」から分かるように、この段の「男」は、業平ではありません。
いわば、同じ職場で働いていても、逢って話す機会がなかったある男女の話。
男は、簾越しでも構わないので逢って欲しいと女に懇願します。
この簾を、二人を隔てる「天の河」と感じた男は、彦星を引き合いに出し、「和歌(170)」を詠みあげます。
誠実さを感じた女は、簾を取り払い、直接逢うことを了承しました。
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