古事記を読む(206)中つ巻-第15代・応神天皇

 







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

髪長比売かみながひめ

応神おうじん天皇は、

日向国ひむかのくに諸県君もろがたのきみの娘である髪長比売かみながひめの容姿が美しいと聞くと、妻として娶ろうと宮中に呼び寄せました。

 

そのとき、皇太子である大雀命おおさざきのみこと(のちの仁徳にんとく天皇)は、

その少女を乗せた船が難波津なにわづに着いたのを見て、その少女の美しい容姿に惚れていまい建内宿禰たけうちのすくねに次のように仰せになりました。

「この日向国ひむかのくにから呼び寄せた髪長比売かみながひめについて、応神おうじん天皇にお願いして、わたしに譲ってはくれないだろうか」

 

これに対して、建内宿禰たけうちのすくねが、このことを申し上げると、天皇は、髪長比売かみながひめをすぐに大雀命おおさざきのみことにお与えになりました。

 

新嘗祭にいなめさいの翌日、豊明の宴会を催されているときに髪長比売かみながひめに柏の葉に入れた酒を持たせて、大雀命おおさざきのみこと髪長比売かみながひめをお与えになりました。

 

そして、天皇は、次の歌をお詠みになりました。

和歌(38)

いざ子ども 野蒜のびる摘みに 蒜摘みに 我が行く道の 香ぐはし 花橘は 上枝は 鳥居枯らし 下枝は 人取り枯らし 三つ栗の 中つ枝の ほつもり 赤ら嬢子を いざささば 宜らしな

(さぁ皆の者、野蒜のびるを摘みに行こう。
蒜を摘みに、わたしが行く道の香り立つ花橘は、
上の枝は鳥が止まって枯れており、下の枝は人が折り取って枯れており、
三つ栗の中ほどの枝はつぼみのような赤い顔をした美しい乙女を、さぁ誘って妻としなさい)

 

また、天皇は、次の歌もお詠みになりました。

和歌(39)

水溜る 依網よさみの池の 堰杙打ちが 刺しける知らに 蓴繰ぬなはくり 延へけく知らに 我が心しぞ いや愚にして 今ぞ悔しき

依網よさみの池に、水をき止める杭を打つ人が、杭を打っていたのも知らず、ぬなはを手繰り寄せる手が伸びたのも知らないで、わたしの心はなんと愚かなことだ。悔しいことだ)

和歌(39):依網よさみの池は、大阪府堺市の池で、杭を打って水をき止めて、よしぬなは(ジュンサイ)を摘もうとしていたのに、何も知らず邪魔をしてしまった、と要は、わたし(応神おうじん天皇)が、息子である大雀命おおさざきのみこと髪長比売かみながひめが良い関係になろうとしているのに、横取りしてしまったという歌。

 

しかし、実際横取りしたのは、息子である大雀命おおさざきのみことです。

話が逆さまで、恐らく応神おうじん天皇の歌ではない。

 

こういった、親が娶ろうとした女性を息子が気に入って譲り受けるというパターンは、割と多く出てきます。

親としたら、本当は譲りたくなくても、必死に拒むのも大人げないので、このパターンは、往々にしてあっさりと息子に譲り渡します。

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