石之日売命
口子臣、その妹の
口日売、
奴理能美の3人は、話し合って、天皇に次のように申し上げました。
「大后が奴理能美の家にお出掛けになっている理由は、奴理能美が飼っている虫が、一度は這う虫になり、次は殻になり、次は飛ぶ鳥になる、3種類に変化する奇妙な虫でございます。この虫をご覧になるためだったのです。他の意図は、ございません。」
これに対して、天皇は、
「それならば、わたしも奇妙と思うので、見に行きたいと思う」
と仰せになりました。
そして、大宮からお出ましになり、奴理能美の家にお入りになりました。
そのとき、奴理能美が飼う3種の虫を大后に献上しました。
そして、天皇は、大后のいる御殿の戸口に立って次の歌をお詠みになりました。
和歌(56)
つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 さわさわに 汝が言へせこそ 打ち渡す やがはえなす 来入り参来れ
(山代の女が木の鍬を持って畑を耕して作った大根。その葉がさわさわととしている。あなたが騒がしく言うから、多くの桑の枝が騒がしく、大勢の者を連れて来てしまった)
この天皇と大后の歌った6つの歌は、志都歌の歌返です。
しかし、天皇は八田若郎女を恋しく思って、次の歌をお詠みになりました。
和歌(57)
八田の 一本菅は 子持たず 立ち荒れなむ あたら菅原 言をこそ 菅原と言はめ あたら清し女
(八田(奈良県大和郡山市矢田町)の一本菅は子を持たず立ち荒れてしまうのだろうか。惜しいことだ。言葉の上では菅原と言っているが、惜しいことに清々しい女である)
これに対して、八田若郎女が答えて次の歌を詠みました。
和歌(58)
八田の 一本菅は 独り居りとも 大君し よしと聞こさば 独り居りとも
(八田の一本菅は、1人で居ても構いません。大君がそれで良いと仰せであるならば、1人で居ても構いません)
そこで、天皇は、八田若郎女の御名代として八田部をお定めになりました。