伊勢物語-第百四段 賀茂の祭

 
伊勢物語







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

(原文)

むかし、ことなる事なくて尼になれる人ありけり。

 

かたちをやつしたれど、ものやゆかしかりけむ、賀茂の祭見に出でたりけるを、男歌よみてやる。

 

和歌(180)

世をうみのあまとし人を見るからにめくはせよとも頼まるるかな

 

これは、斎宮さいぐうのもの見たまひける車に、かく聞えたりければ見さしてかへりたまひにけりとなむ。

 

(現代訳)

昔、特別な事情もなく尼になった人がいた。

 

仏門に入り、髪をそり落としてはいるが、世間の人が見物するようなものに心惹かれたのであろうか、賀茂の祭を見物しに出掛けていたのを見て、男が、歌を詠み送った。

 

和歌(180)

世の中が嫌になり出家なさった尼さまが祭見物とは、私に目配せでもしていただきたいと期待せずにはおられません。

 

これは、斎宮さいぐうであった方が、祭見物をしていた車に、男がこのように申し上げたので、祭見物をお止めになりお帰りになったということだ。

  • 斎宮さいぐう

ここでも、やはり恬子やすこ内親王のこと。

伊勢物語-第六十九段 狩の使
を中心とする伊勢神宮の斎宮さいぐうと業平の物語の後日談でしょうか。

 

  • 和歌(180)

掛詞が多用されています。

「世を憂い出家した尼」の意味の「うみのあま(みの尼)」→「海の海女」

「海藻を食べさせてください」の意味の「めくはせよ(くはせよ)」→「目配せしてください」

 

前段の第百三段の和歌(179)は、「なんときたならしいことよ」と評価されていましたが、

伊勢物語-第百三段 寝ぬる夜

この段の和歌(180)は、遊び心が満載でほっこりさせられます。

 

出家したにもかかわらず、祭見物にこっそりと出掛ける元斎宮さいぐうの尼さん。

それを見つけた業平の「和歌(180)」、そんなに俗世界に未練がおありでしたら、「目配せ(ウィンク?)」していただけたら、話し相手にでもなりましたのに。

 

そそくさと帰る尼さん…

微笑ましい、軽快のやり取りですよね。

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