伊勢物語-第十九段 天雲のよそ
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日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。
古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」
(原文)
むかし、男、宮仕へしける女の方に、御達なりける人をあひ知りたりける、ほどもなくかれにけり。
同じ所なれば、女の目には見ゆるものから、男は、あるものかとも思ひたらず。
女、
和歌(32)
天雲のよそにも人のなりゆくかさすがに目には見ゆるものから
とよめりければ、男、返し、
和歌(33)
天雲のよそにのみしてふることはわがゐる山の風はやみなり
とよめりけるは、また男ある人となむいひける。
(現代訳)
昔、男がある主人のところに出仕していたとき、同じ主人に女房として仕えていた女と親しくなり、情を通わせていたが、まもなくその女と別れてしまった。
出仕先が同じなので、女の目には男の姿が事あるごとに目につくのだが、男の方はこの女のことなど目につくことはない。
女、
和歌(32)
まるで空の雲のように、あなたははるか遠くへわたしと無関係になってゆくのですね。
やはりわたしの目にはあなたが見えるというのに。
と詠んだので、男が返歌を詠んだ。
和歌(33)
空の雲のようにわたしがあなたからはるか遠くでいるのは、わたしが留まるべき山は風が激しく吹いておりわたしを寄せ付けないからです。
と男が詠んだのは、女にはこの男以外に男がいたためだと人は噂したのだった。
女房であった人。「御」は婦人の敬称。
「天雲の」は「よそ」に掛かる枕詞。
この男と女が仕えていた主人は、染殿の后というのが定説です。
この段は個人的には大して面白くもなく、この染殿の后のもとで仕えていた男と女が恋愛関係に発展したが、別れてしまった。
別れたとはいえ、勤め先が同じなので顔を合わすこともあり、女は未練たらしく男を見ているが、男の方は女などいないような感じで平然としている。
女にはこの男の他に男があり、その不実に男の方はさっぱり冷めてしまったという。
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