日本人に寿命が設定されたエピソード

今や日本は、世界有数の長寿国となりました。
しかし、生物ヒトは、いずれ死にゆくものである・・・
これは、確かに真理かもしれませんが、とりわけ、「日本人の生死」に限っては、
日本一有名な夫婦伊邪那岐神と伊邪那美神の夫婦喧嘩が大きく影響していると言うことができます。
夫婦仲絶頂
ときは、神代。
場所は、高天原。
高天原
神々が住む天上の国。
天つ神たちからの命を受け、伊邪那岐神と伊邪那美神の夫婦は、協力して日本列島を創造してゆきます。
ある日、伊邪那岐神は、伊邪那美神に、
「あなたの身体はどのようになっている?」
と尋ねます。
これに対して、伊邪那美神は、真面目に、答えます。
「わたしの身体は、1ヶ所だけ足りないところがあります」
と。
これを聞いた伊邪那岐神は、
「わたしの身体は、1ヶ所だけ余ったところがある。わたしの余ったところを、あなたの足りない所に挿し入れてみようと思うのだが、どうだろうか?」
と提案します。
そして、伊邪那岐神と伊邪那美神は、まぐわい、様々な神々を生み出してゆきます。
仲睦まじく、どんどん神々を生みだしてゆきますが、「火の神」を生み出すときに、伊邪那美神は、女陰に火傷を負い、それが元で亡くなってしまいます。
妻に先立たれた夫のセンチメンタル
伊邪那岐神は、腹這いになり、わんわんと声を上げて泣きました。
そして、愛する妻を失うきっかけとなった「火の神」の首を切り飛ばします。
どうしても伊邪那美神にもう一度逢いたい伊邪那岐神は、死者の国である黄泉国に行けば伊邪那美神に逢えるのではないかと考え、出掛けて行きます。
伊邪那岐神が、黄泉国に到着すると、閉ざされた戸口の向こうから伊邪那美神が姿を見せず対応します。
伊邪那岐神は、寂しさをぶちまけ、
「愛しい我が妻よ。わたしとあなたとでつくった国はまだ出来ていない。一緒に帰ろう。」
と申し出ます。
これに対して、伊邪那美神は、
「残念です。もっと早く来てくだされば・・・。わたしは、もう黄泉国の釜で煮た食べ物を食べてしまいましたので、現世に帰ることはできません。でも、せっかくあなたが会いにいらしてくれたのですから黄泉国の神に相談をしてみます。その間、決してわたしを覗かないと約束してください」
と答えます。
ここで、完全に「覗けフラグ」が立ちました。
鶴の恩返し然り、古事記での山幸彦然り、この伊邪那岐神然り、
「覗くな」と言われて「覗かなかった」物語を少なくともわたしは、読んだことがありません。
そして、例に漏れず、伊邪那岐神も中を覗きます。
夫婦仲崩壊からの罵り合い
そこで伊邪那岐神が見たものは、体が腐り、蛆がまみれ、多数の雷神が取り憑いた伊邪那美神でした。
この姿を見た伊邪那岐神は、一目散に逃げ出します。
これに気付いた伊邪那美神は、
「見たな~。恥をかかせやがって~」
と豹変して、伊邪那岐神を追いかけます。
伊邪那岐神は、なんとか逃げ切ると、この世と黄泉国とをつなぐ入口を巨大な岩で塞いでしまいます。
やがて追いついてきた伊邪那美神と岩越しに会話し、
伊邪那岐神が、離別の呪言を言い渡すと、
伊邪那美神は、
「愛しい夫がそのようなことをするのであれば、あなたの国の人間を毎日1000人締め殺してしまいましょう」
と脅します。
これに対して、
伊邪那岐神は、
「愛しい妻がそのようなことをするのであれば、毎日1500個の産屋を建てましょう」
と応戦します。
売り言葉に買い言葉ですが、この宣言以降、伊邪那美神のこの呪いで、日本人は死に、伊邪那岐神の恩恵で日本人は生まれることになりました。
さいごに
伊邪那美神の「1000人絞め殺す」は、確かに衝撃的内容ですが、
「毎日1000人死に、毎日1500人生まれる」
これは、つまり、日本という国のその後の発展を暗示しているということです。
「毎日1500人生まれ、毎日1000人死ぬ」
ではなく、あくまで「死」が先に来ているのも個人的には、良いと思っています。
現在は、死ぬ人の方が増え、どんどん人口減少を起こしていますが・・・
そもそもわたしが、最初に古事記に興味を持ったのは、こうした「とんでもない」神様らしくないエピソードが満載なことと、「人類」とか「世界」とかではなく、あくまで、「日本」という国のことを書いており、おこがましくないことが挙げられます。
さらに、この黄泉国での穢れを祓おうと、伊邪那岐神が全身を水で洗い清めた際に、
天照大御神や須佐之男命が誕生し・・・
1つの出来事が様々な物語へと発展してゆきます。
日本人必読の書、「古事記」を是非手にとってみてください。