伊勢物語-第六十一段 染河 2020-09-20 WRITER 雨野やたしげ この記事を書いている人 - WRITER - 雨野やたしげ フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」 (原文) むかし、男、筑紫つくしまでいきたりけるに、「これは、色好むといふすき者」と、すだれのうちなる人のいひけるを聞きて、 和歌(110) 染河を渡らむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ 女、返し、 和歌(111) 名にし負おはばあだにぞあるべきたはれ島浪の濡衣ぬれぎぬ着るといふなり (現代訳) 昔、男が筑紫つくし(九州北部)まで行ったとき、「この人は、色好みで多情だという評判の人です」と簾の中にいる人が言ったのを聞いて、男は次のように詠んだ。 和歌(110) この地へ来るには、染河を渡ることになりますが、その名の通り、どうして色に染まらずにいることができるでしょうか。 必ず染まってしまいます。 女が返した。 和歌(111) 名の通りに負ってしまうというのなら、たわれ島は、その名のとおり浮気で実意などないはずです。 ただ打ち寄せる波がかかって、濡れてしまい濡衣ぬれぎぬを着せられているのだということです(同様にあなたの色好みも、染河という地名には全く関係なく、あなた自身が本来、色好みということなのですよ)。 筑紫つくし、つまり現在の福岡県付近は、外交上でも重要な地であり、都との人の往来も盛んで、都人みやこびとの噂が伝わる土壌があったという背景が前提。 色好みの噂を、染河という地名を渡ったからだと言う男に対して、女が「たはれ島」(風流島)を引き合いに巧みな返答歌を返す。 「たはれ島」(風流島)を渡ったからといって、浮気者にはならない、つまり、あなた(男)は、生来の色好みでしょうと・・・ 女の巧みな返答に感心する。 この記事を書いている人 - WRITER - 雨野やたしげ フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」 前の記事 -Prev- 伊勢物語-第六十段 花橘 次の記事 -Next- 伊勢物語-第六十二段 こけるから 関連記事 - Related Posts - 伊勢物語-第九十三段 たかきいやしき 伊勢物語-第三十段 はつかなりける女 伊勢物語-第二十一段 おのが世々 伊勢物語-第十六段 太刀のをがはの(伝 為氏本) 最新記事 - New Posts - 伊勢物語 あとがき 伊勢物語-第十八段 あきの夜も(伝 為氏本) 伊勢物語-第十七段 夢と知りせば(伝 為氏本) 伊勢物語-第十六段 太刀のをがはの(伝 為氏本)