古事記を読む(135)中つ巻-初代・神武天皇

 







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フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰「未来を担う子ども達に自分たちのアイデンティティである日本神話を」

多芸志美美命たぎしみみのみこと

神武天皇が崩御ほうぎょすると、神武天皇の側室の子である多芸志美美命たぎしみみのみことが神武天皇の皇后である伊須気余理比売いすけよりひめを妻にしました。

多芸志美美命たぎしみみのみことは、腹違いの兄弟である日子八井命ひこやいのみこと神八井耳命かむやいみみのみこと神沼河耳命かむぬなかはみみのみことを殺害する陰謀を企てていました。

3兄弟の親である伊須気余理比売いすけよりひめは、その陰謀を知ると憂い苦しみ、その陰謀を子どもたちに知らせるために次の歌をお詠みになりました。

和歌(21)

狭井河よ 雲立ちわたり 畝火山 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす

(狭井河から雲が立ちのぼり、畝火山の木の葉が鳴りざわめいている。嵐が来ようとしている。)

 

そして、さらに次の歌をお詠みになりました。

和歌(22)

畝火山 昼は雲とゐ 夕されば 風吹かむとそ 木の葉騒げる

(畝火山は昼間は雲が止まっているが、夕方になると嵐の前触れのように木の葉が鳴りざわめいている。)

 

御子たちは、その歌を聞いて義理の兄の陰謀を知ると、多芸志美美命たぎしみみのみことを殺すべく、神沼河耳命かむぬなかはみみのみことは、兄である神八井耳命かむやいみみのみことに次のように言いました。

 

「兄よ。兄であるあなたが武器を手にして、多芸志美美命たぎしみみのみことを殺してください」

すると、兄の神八井耳命かむやいみみのみことは、武器を手にして、殺そうとしましたが、手足がぶるぶると震えてしまい、殺すことが出来ませんでした。

 

そこで弟の神沼河耳命かむぬなかはみみのみことが、兄が手にしていた武器を持ち、多芸志美美命たぎしみみのみことを殺しました。

そのような訳で、その名を称えて建沼河耳命たけぬなかはみみのみことといいます。

和歌(21)、(22):この和歌(21)、(22)で伊須気余理比売いすけよりひめは、子ども達に陰謀計画があることを知らせます。

建沼河耳命たけぬなかはみみのみこと「建」には、勇敢でたくましいといった意味があります。古代日本の英雄倭建命やまとたけるのみことにも「建」の文字があります。

 

神武天皇も末弟でしたが、のちに第2代天皇となる神沼河耳命かむぬなかはみみのみことも末弟です。

本来ですと、殺された多芸志美美命たぎしみみのみことが第2代天皇となっても不思議ではありません。

父である神武天皇の皇后であった伊須気余理比売いすけよりひめを妻にしたのも、その正当性を示す意味合いがあったのでしょう。

しかし、伊須気余理比売いすけよりひめは、夫よりも我が子を選びました。

 

そして、多芸志美美命たぎしみみのみことを殺すことをビビってしまった兄に代わり、神沼河耳命かむぬなかはみみのみこと多芸志美美命たぎしみみのみことを殺します。

このあたりも末弟である神沼河耳命かむぬなかはみみのみことが次の天皇になることの正当性として描かれているのかもしれません。

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