古事記を読む(233)下つ巻-第19代・允恭天皇

 




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雨野やたしげ
フリーの翻訳者・ライター、編集、校正。 日本の伝統文化である和歌、短歌、古典、古事記、日本文化、少しのプライベート。 古事記の教育現場復帰を強く願う「自分たちの神話を学ばない民族に未来はない」。

軽太子かるのひつぎのみこ軽大郎女かるのおおいらつめ

穴穂御子あなほのみこは、軍勢を集めて大前小前宿禰おおまえおまえのすくねの家を囲みました。

 

ところが、その門に到着したときにひどい氷雨おおひさめが降りました。

 

そして、穴穂御子あなほのみこは、次の歌を詠みました。

和歌(73)
大前小前宿禰おおまえおまえのすくねが 金門陰 かく寄り来ね 雨立ち止めむ

大前小前宿禰おおまえおまえのすくねの家の金の門の陰に、このように寄って来なさい。雨が止むまで待ちましょう)

 

すると大前小前宿禰おおまえおまえのすくねが手を挙げ、膝を打って舞い踊り、歌いながらやってきました。

和歌(74)

宮人の 足結あゆいの小鈴 落ちにきと 宮人とよむ 里人もゆめ

(宮廷の人の足結あゆいの小鈴を落としてしまったと、宮廷の人が騒いでいる。里人は騒いではいけない)

 

この歌は宮人振みやびとぶりです。

 

大前小前宿禰おおまえおまえのすくねがそのように歌いながら
やって来て、

「我が天皇の御子(穴穂御子あなほのみこ)よ。兄の軽太子かるのひつぎのみこに兵を向けてはいけません。もしそのようなことをすれば人々は笑うでしょう。わたしが捕えて差し出しましょう」

と申し上げると、

 

それを聞いた穴穂御子あなほのみこは、兵を解散し退きました。

そこで大前小前宿禰おおまえおまえのすくねは、軽太子かるのひつぎのみこを捕えて、引き連れて現れて差し出しました。

 

軽太子かるのひつぎのみこは捕えられて、次の歌を詠みました。
和歌(75)

天だむ 軽の乙女 いた泣かば 人知りぬべし 波佐の山 鳩の 下泣きに泣く

(軽の乙女(軽大郎女かるのおおいらつめ)よ。ひどく泣いていると、人に知られてしまう。波佐の山の鳩のように、声を忍ばせて泣いている)

 

また次の歌を詠みました。

和歌(76)

天だむ 軽乙女 したため 寄り寝て通れ 軽乙女ども

(軽の乙女(軽大郎女かるのおおいらつめ)よ。しっかりと寄り添って寝て行きなさい。軽の乙女たちよ)

足結あゆいはかまの膝の辺りを結んで動きやすくする紐。

和歌(74):足結あゆいの小鈴が落ちたことは、朝廷によくない兆しが起きている象徴。

和歌(76):最後「軽乙女ども」と何故複数形になっているのか?軽の乙女こと軽大郎女かるのおおいらつめは、1人です。「軽」は単に「地名」で、そこの乙女たちのことを詠んだ全く別の歌をこの古事記の物語にあとから当てはめたものであると考えられています。

 

大前小前宿禰おおまえおまえのすくねも割と薄情なもので、自分を頼って来た軽太子かるのひつぎのみこをあっさりと捕え、穴穂御子あなほのみこ側に差し出しました。

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